インターネット上で毎日のように繰り返されている誹謗中傷。現実社会では面と向かって言われないような、心無い言葉に胸を痛めている当事者も多いのではないでしょうか。
このように、相手のことを傷つける発言を公衆の面前で行った場合、侮辱罪に問われる可能性があります。そして、2022年4月には刑法が改正され、侮辱罪が厳罰化されました。
今回の記事では、これまでの侮辱罪と比べて何が変わったのか、主な変更ポイントについて詳しく解説します。
誹謗中傷は「侮辱罪」での取り締まり対象
誹謗中傷という言葉を聞くと、単に他人を傷つける行為と認識されがちであり、直ちに逮捕されたり法律によって処罰されたりすることはないと考える人も少なくありません。
しかし、たとえば他人に身体的な危害を加えた場合は暴行罪にあたり、軽い気持ちで行った行為であったとしても処罰される可能性があります。誹謗中傷も同様であり、法律上は侮辱罪が適用され取り締まりの対象となります。
加害者のなかには、相手を傷つける意図はなかった、と弁解するケースも多くあります。しかし、たとえ身体的な危害を与えていなくても、相手が受ける精神的ショックやダメージは大きく、最悪の場合、自ら死を選択するケースも少なくありません。実際、インターネット人口が爆発的に増え、SNSや匿名掲示板などで誰もが情報を発信できるようになった今、誹謗中傷の被害を受けた著名人の自殺が相次いでいます。
このような事態を重くみた政府は、誹謗中傷対策として刑法を改正し、侮辱罪の法定刑が引き上げられることとなりました。
これまでの侮辱罪の法定刑
そもそも侮辱罪とは、刑法231条として以下のように定められています。
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」
「侮辱」とは、相手のことをばかにしたり、罵ったり、蔑んだりする行為を指しますが、侮辱罪には「公然と」という言葉が含まれています。あいまいな言葉ではありますが、たとえ対象人数が少数であったとしても、ほかに広く拡散する可能性がある場合は侮辱罪にあたる可能性があります。
これまで侮辱罪の法定刑は、拘留もしくは科料と定められていました。拘留とは、警察署の留置場や拘置所、刑務所などに30日間未満拘置することで、科料の金額は1万円未満と定められています。すなわち、これまではインターネット上で誹謗中傷をしても、刑事罰としては比較的軽い制裁しかなかったのです。
侮辱罪は明治時代に定められたものがそのまま現在まで引き継がれており、当時はインターネットもなく個人が情報を発信できる範囲も限られていたことから、法定刑も比較的軽いものでした。しかし、情報化が進んだ昨今、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化していることもあり、侮辱罪が見直されることになったのです。
刑法の見直しにともなう侮辱罪の変更ポイント
では、刑法の見直しによって侮辱罪はどのように変わったのでしょうか。大きなポイントとしては、法定刑の引き上げと公訴時効の延長です。
法定刑の引き上げ
上記でも紹介したとおり、これまでの侮辱罪は、拘留または科料という罰則しかありませんでした。事実とは異なる情報を拡散し、相手に損害を及ぼしたり、名誉を傷つけた場合、刑事罰としての社会的制裁は不十分と言わざるを得なかったのです。
そこで、改正後の刑法では侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役もしくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」へと変更しました。これまでに比べて大幅に罰則が強化されたことで、誹謗中傷への抑止力につながると期待されています。
公訴時効の延長
公訴時効とは、一定期間が経過すると犯人を処罰できなくなる(起訴できなくなる)期間のことを指します。一般的には「時効」ともよばれ、殺人や強盗殺人といった凶悪事件を除き数年から数十年の期間が定められています。
これまでの刑法では、侮辱罪の公訴時効は1年と定められていました。しかし、今回の改正にともない公訴時効は3年まで延長されます。
インターネット上で誹謗中傷を受けた場合、相手の身元を特定するために多くの時間を要するほか、日数が経過してから該当の書き込みを認識することも珍しくありません。公訴時効が3年まで延びたことによって時間に余裕ができ、より多くの被害者を救えると期待されています。
侮辱罪の変更ポイント
改定前 | 改定後 | |
---|---|---|
刑罰 | 30日間未満の拘置 | 1年以下の懲役もしくは禁錮 |
罰金 | 1万円未満 | 30万円以下 |
公訴時効 | 1年 | 3年 |
侮辱罪の懸念点
刑法のなかで明確に定められている侮辱罪ですが、罰則が強化されたことで懸念点も指摘されています。それは「表現の自由」との兼ね合いです。たとえば、大きな権力をもった政治家や政府関係者、大企業などの不祥事を暴こうとしたとき、侮辱罪を盾に抵抗してくることもあるでしょう。罰則が強化されたことでメディアの報道が及び腰になり、法律が悪用される可能性も十分考えられるのです。
また、そもそも侮辱罪は警察署で相談したからといって告訴が受理されるとは限りません。これは、いつ・誰に・どのような内容の侮辱を受けたのかを明確に説明する必要があるためで、そのためにはさまざまな証拠も求められます。また、相談内容によっては検察の判断で不起訴となるケースもあることから、被害者にとって侮辱罪で立件することはハードルが高いのが現状なのです。
誹謗中傷の被害に遭ったら専門業者への相談もおすすめ
侮辱罪はれっきとした犯罪であるにもかかわらず、さまざまな事情から泣き寝入りせざるを得ない被害者は多いです。特にインターネット上の誹謗中傷は、被害者側でどのような証拠を揃えれば良いのか分からないことも多いでしょう。
もし、そのようなトラブルに巻き込まれたり、悩みを抱えている場合は、誹謗中傷や風評被害を専門に扱っている業者へ相談してみるのもおすすめです。当該書き込みの削除要請を代行できるほか、悪質な行為に対しては弁護士と連携しながら適切に対処することも可能です。
今後同様の被害に遭わないようにするために、そして被害がさらにエスカレートすることを防ぐためにも、まずは一度ご相談ください。
今回は、22年4月に改正された侮辱罪について、これまでの侮辱罪と比べて何が変わったのか、主な変更ポイントについて詳しく解説しました。「フェイクニュースに巻き込まれないために重要な心がけとは?被害者になった場合の対処法も解説」では近年問題視されているフェイクニュースの影響力と、巻き込まれて知らぬ間に加害者や被害者にならないためのポイントを紹介しています。是非ご覧ください。