インターネットが社会に普及し一般的になった今、攻撃的なコメントを残すなどして第三者へ誹謗中傷を行うケースが相次いでいます。今や誹謗中傷は大きな社会問題と言えるでしょう。
誹謗中傷はあらゆる場面で起こっていると思われがちですが、実際には発生しやすい環境や傾向がいくつか存在します。どのような環境下で誹謗中傷は起こりやすいのか、サイト管理者や個人として誹謗中傷を防ぐポイントもあわせて紹介します。
誹謗中傷とは
そもそも誹謗中傷とは、他人の悪口を言ったり、名誉を毀損するような言動をとったりすることを指します。誹謗中傷は特定の個人に向けられるものというイメージがありますが、団体や企業などに対して行われる場合もあります。
例えば、誹謗中傷の例としては以下のようなものが挙げられます。
侮辱
相手を軽蔑したり、人格を否定するような言葉で攻撃したりすることが侮辱にあたります。
相手に対して一方的な恨み、妬みなどを抱き、それが原因で侮辱行為を行うケースもあれば、相手を攻撃することによって、自分自身を優位に立たせることを目的としている場合もあります。
嘲笑
相手の外見や性格、趣味や嗜好などを、悪意をもって茶化したり、ばかにしたりすることが嘲笑にあたります。自分が正しいと思っている意見を述べるだけでなく、相手を傷つけることが目的となっている場合も少なくありません。
虚偽の情報・噂の流布
SNSなどを利用した嫌がらせとして増加しているのが、虚偽の情報や噂の流布です。その名の通り、ニセの情報やうその情報を流し、相手に対して不利益を与えることや名誉を毀損することを目的としており、誹謗中傷のなかでも特に悪質な行為にあたります。
「侮辱」「嘲笑」「虚偽の情報・噂の流布」などが誹謗中傷にあたる可能性があります。法で定められた誹謗中傷の説明については「誹謗中傷にあたるのはどこから?具体例と合わせて分かりやすく解説」をご覧ください。
誹謗中傷が厳罰化
SNSなどによって誰もが手軽に情報を発信できるようになった今、誹謗中傷は社会問題化しており、心無いユーザーからの誹謗中傷や風評被害によって、自ら命を絶つケースもあります。
このような時代背景もあり、日本では誹謗中傷の被害者を守るためにさまざまな法律が整備され、侮辱罪に対する罰則も厳罰化されており、2022年7月からは懲役刑と禁錮刑、罰金刑が追加されています。
侮辱罪の厳罰化
改正前 | 拘留又は科料 |
---|---|
改正後 | 1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
また、2022年10月にはプロバイダ責任制限法が改正され、これまで手続きが煩雑で難しかった発信者情報開示請求のルールが大幅に緩和されました。
従来の法律では、被害者が発信者個人を特定するためにはサイトの管理者や運営者とインターネットサービスプロバイダそれぞれに対して法的手続きをとる必要がありましたが、現在では一体的な手続きによって発信者情報の開示請求ができるようになっています。
これまで手続きの煩雑さから泣き寝入りをせざるを得なかった人も、改正プロバイダ責任制限法のもとでは手間をかけることなく損害賠償請求が可能になっています。
情報開示請求の簡略化
開示請求先 | SNS事業者 | プロバイダ | 投稿者 |
---|---|---|---|
改正前 | 記録の開示請求 | 個人情報の開示請求 | 損害賠償請求 |
改正後 | 記録と個人情報を同時に開示請求 | 損害賠償請求 |
誹謗中傷の被害者は心に深い傷を負い、立ち直れないこともあります。また加害者のなかには、「軽い気持ちでやった」、「冗談のつもりだった」ことでも厳罰に処されることもあります。誹謗中傷は自分も相手も不幸になる罪です。
誹謗中傷が発生しやすい環境とは
誹謗中傷は、匿名性が高い場所で発生しやすいといわれています。このようなことを聞くと、インターネット上の空間をイメージする方も多いと思いますが、実際にはリアルな現実社会のなかでも発生することが少なくありません。
誹謗中傷が発生しやすい環境とは具体的にどのような空間なのか、代表的な4つのケースに分けて紹介しましょう。
匿名掲示板
インターネット上の匿名掲示板は、投稿者の氏名や住所、顔などが特定できないため、誹謗中傷が発生しやすい環境といえます。
また、個人的には攻撃する理由や根拠、動機がなかったとしても、他のユーザーから批判的なコメントが多く寄せられている状況では、掲示板全体においてネガティブな雰囲気が増幅され、誹謗中傷を書き込む人がさらに増える可能性もあります。
さらに、匿名掲示板では投稿内容がリアルタイムで反映されるため、被害者が気づく前に大勢の人々の間で拡散されてしまうこともあります。仮に書き込みの内容が事実とは異なっていても、大勢のユーザーに拡散された後では本人が事実を訂正したり釈明したりすることは難しく、手の打ちようがなくなってしまうのです。
匿名掲示板は、アカウントを作りやすいため投稿者を特定しにくく、誹謗中傷が発生しやすい。ネガティブな雰囲気が増幅され、誹謗中傷が広がりやすい。
SNS
匿名掲示板と並んで誹謗中傷が発生しやすい環境がSNSです。掲示板と同様に多くの人々が繋がっているうえ、トレンドによって誹謗中傷が一気に拡散しやすい環境ともいえます。SNSの場合、特に誹謗中傷の被害を受けるリスクが高いのがTwitterやInstagramなどで多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーや有名人です。
ちょっとした失言や不適切な言動が瞬時に拡散され、それが原因で激しい誹謗中傷を受けることも少なくありません。
拡散力が凄まじく、一度トレンドに上がると数百万単位の人に拡散される。有名人公式アカウントや人気インフルエンサーをターゲットにした誹謗中傷が発生することもある。
大勢の観客が集まる場所
匿名掲示板やSNSの場合、相手の情報が見えないため、それが要因となって誹謗中傷を増幅させることもあります。
しかし、実はこのようなインターネット空間だけでなく、現実社会のなかでも特に大勢の観客が集まる場所は、誹謗中傷が発生するリスクが高い傾向が見られます。
たとえば、音楽のライブやスポーツイベントなどでは熱狂的なファンが集まります。しかし、自分が気に入らなかったり、チームが不甲斐ない試合結果となってしまったりした場合、アーティストや選手に対して攻撃的なコメントや行動をするファンが現れることがあります。
また、はじめのうちは一部のファンのみが誹謗中傷をしていても、このような言動が皮切りとなって、同じように考えていたファンが集まりさらに誹謗中傷が増幅されるケースもあるのです。
現実社会でも熱狂的なファンによって誹謗中傷が起こることがある。SNSなどを通じてファン以外へも拡散される。
グループLINE
グループLINEは、クラスの友達や職場の同僚、サークルの仲間など、リアルのコミュニティから形成されることが多くあります。お互いのことを把握できており親密な関係性で繋がっているため、本来は誹謗中傷が発生しにくい環境でもあります。
しかし、親密で相手のことを信頼している関係だからこそ、ちょっとした言動や意見の食い違いで関係が悪化することも珍しくありません。
数人のグループLINEであれば事態が深刻化する前にお互いが話し合ったり和解したりすることもできますが、人数が多くなるとメンバー同士でも意見が割れ、派閥ができることもあります。その結果、グループ全体が険悪な空気になってしまい、さらに深刻ないじめにまで発展するケースがあるのです。
現実社会のつながりがあるからこそ文字のやり取りで行き違いが発生すると修復が困難。いじめに発展するケースも。
サイトの管理者が行う誹謗中傷対策のポイント
誹謗中傷は個人や企業に対して大きな損害を与える可能性があります。そのため、サイトの管理者や運営者は、誹謗中傷を防ぐための対策を講じておくことが重要です。誹謗中傷を防ぐための対策にはどのようなものがあるのか、具体的な項目別に解説します。
誹謗中傷に対しては毅然と対応する旨の警告
サイト上で日常的に誹謗中傷が行われている場合には、まずはその事実をサイト上で公表し、誹謗中傷に対して毅然と対応する旨の警告を出すことが重要です。
サイト利用者のなかには、そもそも自分の投稿内容が誹謗中傷にあたらないと誤解している人が少なくありません。このような警告を出すことで、サイト利用者がこれまでの自分の言動を振り返るきっかけを与え、誹謗中傷を撲滅できる可能性もあります。
また、サイト利用規約に誹謗中傷を禁止する条項を設けることも重要な対策のひとつです。
誹謗中傷の被害に遭った場合の窓口設置
誹謗中傷の被害に遭った場合、被害者がサイト管理者に報告しやすいように専用の窓口を設置することも重要です。窓口を設置することで、サイト管理者が誹謗中傷の被害実態を素早く把握できるとともに、被害者が適切な対応やケアを受けることにもつながります。
窓口の設置方法はさまざまですが、サイト上での専用報告フォームやメール、電話による相談などが挙げられます。また、被害者に対して迅速な対応を行うためにも、窓口に対する連絡先はサイト上で明確に提示しておきましょう。
定期的な監視・パトロール
サイト管理者や運営者は、誹謗中傷が発生しないように定期的な監視・パトロールを行うことも重要です。特に、匿名掲示板やコメント欄など、利用者が自由に書き込みできる場所においては日常的な監視・パトロールが不可欠です。
また、監視のなかで誹謗中傷にあたるコメントや書き込みを確認した場合には、管理者の権限において削除することも大切です。
こまめな監視やパトロールをすることで、利用者に対して「誹謗中傷の書き込みはすぐに削除される」、「しっかりとパトロールがされており信頼できるサイト」というイメージを植え付け、誹謗中傷の抑止力にもつながります。
- サイト利用規約に誹謗中傷を禁止する条項を設ける
- 誹謗中傷に対し法的処置をとると警告
- 被害者用、通報用の窓口を設置
- 日常的にサイト内をパトロール
- 不適切な発言は管理者の権限において削除
個人が加害者にならないための心がけ
誹謗中傷を行うことは他人の尊厳を傷つける行為であり、法的にも厳しく罰せられます。しかし、誹謗中傷の加害者のなかには、第三者に指摘されるまでそれに気付かなかったり、深刻にとらえていなかったりするケースもあるのです。自分自身が誹謗中傷の加害者にならないためにも、以下のような心がけが重要です。
他人を尊重する
これはインターネット上でも現実社会でも共通していることですが、他人の立場や感情に配慮し、尊重することが何よりも大切です。
自分が不快に感じるような言動は、相手にも同じように不快感を与える可能性があります。そのため、掲示板やSNSなどに書き込む前に、その内容を自分が受けたらどう感じるかを客観的に考え、相手を傷つける言葉や差別的な表現、過度な批判は避けましょう。
自分が言いたいことを相手に伝える際には、感情に振り回されるのではなく、冷静な気持ちになって相手の立場や感情に配慮した言葉遣いを心がけるようにしましょう。
噂や情報を信じない
誤った情報を鵜呑みにし、それを拡散させたことで間接的に誹謗中傷へ加担してしまうこともあります。インフルエンサーや著名人が発信している内容だからと安易に信用せず、自分が直接聞いたことや目の前で起こったこと以外は、事実を確認することを心がけましょう。
特にSNSなどで拡散される情報は真偽が確認されていないことも多く、誤解を招くことがあるため十分な注意が必要です。
誹謗中傷を行った場合の罰則・リスクを把握
誹謗中傷を行った場合、どのような罰則があるのかを正確に把握しておくことも大切です。
今回紹介した法規制の内容はもちろんですが、それによって仕事にどのような影響があるのか、誹謗中傷の加害者としてSNSなどで糾弾されるリスクも考えたうえで情報や自分の意見を発信することが大切です。
匿名掲示板やSNSから距離を置く
匿名掲示板やSNSなどでは、個人をターゲットとした誹謗中傷が毎日のように行われています。そのような環境に身を置いていると、それが当たり前のように感じてしまうことから、一定の距離を保ってうまく付き合っていくことが大切といえます。
自分自身が誹謗中傷の加害者にならないためにも、誹謗中傷が発生しやすい環境に身を置かないことも有効な対策のひとつなのです。
- 相手を傷つける言葉、差別的な表現、過度な批判は避ける
- 発信する前に客観的な視点で確認
- 発信者に関わらず、内容の真偽を疑う
- 誹謗中傷の罰則・リスクを知っておく
ネットとうまく付き合いながら誹謗中傷をなくそう
法律に詳しくない一般の方にとっては、具体的にどのような行為が誹謗中傷にあたるのか、その判断基準が曖昧でわかりにくいと感じることもあるでしょう。
しかし、法律的な問題を知る以前に、インターネットを利用するうえでは人を尊重し、むやみに攻撃しないことが大前提であり、インターネットリテラシーの根幹にある考え方ともいえます。
そして実際にインターネット上での誹謗中傷に悩んでいる方は、誹謗中傷や風評被害を専門に扱う対策業者へ相談してみるのもおすすめです。弁護士とも連携しており、発信者情報開示請求や損害賠償請求など法的手続きを行う際には弁護士を紹介することも可能です。加害者、被害者双方に的確な対応をとってもらえるでしょう。
今回はどのような環境下で誹謗中傷は起こりやすいのか、サイト管理者や個人として誹謗中傷が起こらないようにするためのポイントついても解説しました。「フェイクニュースに巻き込まれないために重要な心がけとは?被害者になった場合の対処法も解説」ではフェイクニュースの加害者にならないための心がけと、被害者となってしまった場合の対処法について解説しました。是非ご覧ください。