インターネットやSNSを利用するユーザーが爆発的に増えたことにより、特定の個人や団体、企業などに対する誹謗中傷が社会的な問題となっています。
誹謗中傷をする側はPCやスマートフォンで手軽に書き込みができるため、それが相手をどれだけ傷つけるのか理解できていないことも少なくありません。しかし、誹謗中傷を受けた当事者からしてみれば、自分自身を真っ向から否定されたような気分になり、まして顔の見えない相手からの攻撃ということもあり、恐怖心を抱くケースもあるでしょう。
このような場合、傷ついた心を回復するためにはどのようなケアが求められるのでしょうか。具体的なメンタルケアの方法について、一例を取り上げながら詳しく解説します。
ネット上での誹謗中傷が増幅する理由とは
インターネット上での誹謗中傷被害に遭うと、見知らぬ第三者からの攻撃によって「自分には味方がいないのではないか」「自分の考え方や価値観が完全に間違っていたのではないか」などと考えてしまうこともあります。しかし、そもそも特定の個人や団体、企業などに対して集中的に誹謗中傷が繰り返される根本的な仕組みを理解しておくことが重要です。
現在のインターネットは、一言でいえば「知りたい情報が集まってきやすい環境」と表現できるでしょう。たとえば、SNSで「Aさん」という有名人に関してツイートしたときや、「いいね」や「リツイート」をした場合、それ以降、Aさんに関連する情報がタイムラインに表示されやすくなります。また、検索結果やWebサイトに表示される広告なども、そのユーザーに最適化される傾向もあります。
インターネット上の情報は偏りがなく公平であると信じているユーザーも少なくありませんが、実際には個人に最適化され、その人にマッチした情報が表示されやすい仕組みとなっているのです。
このような仕組みを理解しないままSNSやインターネットを利用していると、たとえばAさんに対して批判的な内容ばかりを「いいね」、「リツイート」したとき、あたかも自分以外の多くのユーザーも同じ意見で、一般的な民意であるかのような錯覚に陥ることがあります。
もし、自分が誹謗中傷の当事者になってしてしまった場合、同じような批判的・攻撃的な意見はインターネット上では一部であること、偏った思想や意見だという可能性を念頭に置くべきでしょう。
- インターネット、SNSにはレコメンド(おすすめ)の機能が働いているので利用者は無意識のうちに自分と同じ傾向の意見や思想を目にすることが多い。
- 自分の意見が大多数だと思い込み、意見に正当性を与えてしまい、それが他者を攻撃する原因となっている。
ネット上での誹謗中傷被害に遭った場合のメンタルケア
では、万が一自分自身が誹謗中傷の被害に遭ってしまった場合、どのようなメンタルケアが求められるのでしょうか。具体的なメンタルケアの方法として4つの例を紹介します。
SNSを見ない
まずは、誹謗中傷の温床となっているSNSを見ないことが重要です。多くの人からの批判が集中する、いわゆる炎上状態に陥ってしまうと「今の状況はどうなっているのか」と心配になってしまうもの。しかし、だからといってSNSを開いてしまうと、さらに誹謗中傷のリプライやDMを目にすることになり、今よりも傷口を広げてしまう可能性もあります。
そのため、SNSのアプリを一時的に消去するなどして目につかないようにすることが応急処置として求められます。
相談窓口への連絡
SNSを目にしないような対策を講じた後は、傷ついた心を回復する必要があります。悩みを気軽に相談できる、信頼ある友人や恋人、家族などがいればその人を頼るのもひとつの方法でしょう。しかし、そのような人であっても、意見や価値観の相違から自分を十分理解してくれないケースも考えられます。
そこで、専門の相談窓口に連絡することも有効な方法といえるでしょう。たとえば、厚生労働省では「まもろうよ こころ」というWebサイトを開設し、電話やLINEなどによる相談窓口を紹介しています。家族や友人など親しい人だからこそ相談しにくい内容でも、一人で抱え込むことなく、さまざまな問題・悩みの相談にのってくれます。
問い合わせ窓口
まもろうよ こころ | https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ |
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専門家への相談
相談窓口で心の負担が少し緩和されたとしても、誹謗中傷そのものがなくなるとは限りません。なかには、明らかに脅迫ととれる内容の書き込みや、人権侵害にあたる書き込みなどもあるでしょう。相手の顔が見えて本人が特定できる場合には対処の方法もありますが、匿名が大半を占めるインターネットの世界では、まず自分は何をすれば良いのか分からないケースも少なくありません。
そのような場合、適切な対処方法を専門家に相談することができます。たとえば、法務省は「インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内」として、弁護士に相談できる「法テラス」、警察の「サイバー犯罪相談窓口」などを紹介しています。また、不適切な言葉を書き込んだ者に対して削除依頼する方法を具体的に助言する法務省の機関「違法・有害情報相談センター」もあります。
誹謗中傷の内容や規模によっても対応は異なるため、まずは上記のような専門機関へ相談し、判断を仰ぐようにしましょう。
問い合わせ方法
誹謗中傷に関する相談窓口のご案内 | https://www.moj.go.jp/content/001335343.pdf |
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誹謗中傷・風評被害の専門業者へ相談
弁護士や警察などに相談するのは心理的なハードルが高く、抵抗がある方も少なくありません。そのような場合には、より気軽に相談できる民間の事業者もおすすめです。
たとえば、ネット上の誹謗中傷や風評被害対策を専門に扱っている事業者では、個別の削除依頼や検索エンジンの関連ワード対策などにも対応しています。誹謗中傷に該当する書き込みが少ない状態でも、個別に対応することで大規模な炎上を未然に防ぐこともできるでしょう。
なお、専門業者といっても弁護士ではないため、相手に対して賠償を求めるなどの行為は難しいケースもあります。そのような場合には、必要に応じて弁護士や専門機関も紹介してもらえるので、一次的な相談先としても最適です。
誹謗中傷によって自分自身を追い込む必要はない
誹謗中傷による苦しみは、実際にその被害を受けた当事者になってみなければ本当の意味で理解することは難しいものです。世の中の人すべてが敵に見えてしまったり、人間不信に陥ったりすることもあるでしょう。
しかし、だからといって「自分が全て悪いから」「自分に責任があるから」と、自らを追い込んでしまう必要はありません。むしろ、批判や意見の域を超えた誹謗中傷に対しては毅然とした対応をとるべきであり、その行動が社会問題化しているネット上の誹謗中傷を抑止することにもつながります。
自分ひとりで抱え込むのではなく、相談窓口や専門業者なども活用しさまざまな悩みをご相談ください。
今回は誹謗中傷をした場合、された場合、まず心を守るためにどんなことができるか、その第一歩をご紹介しました。「SNSによる誹謗中傷を受けた場合の対処方法とは」では、誹謗中傷にはどのようなものがあるのか、またどのような対応が可能かを解説しています。是非ご参考ください。